経営者が「変革!」を叫んで、従業員に語り掛けても動かない。将来の素晴らしい姿を描いて見せて、素晴らしい世界がやってくると語り掛けてみても、従業員は動かない。右耳で聞いた言葉がそのまま左耳から出ていく。従業員は同じことの繰り返しで満足していて新しいことにはチャレンジしない。なんて事を思っている経営者やマナージャーが多いのではないでしょうか。
満足や不満足に対する人の損得勘定はどのようになっているのでしょうか。「損」に対する感情(悲しさ)は、「得」に対する感情(嬉しさ)の2.5倍だと言われています。100円を失った悲しみは、250円を得したことによってしかバランスしないのだそうです。従って、人の行動は損失回避モードが主体になります。とにかく、損なことはしない、多少の得があるとしても、リスクがあるのなら、チャレンジはしないのです。現状維持が最も選ばれる行動になるのです。
儲け話にはのらない、だって損するかもしれないから。人の後に付いていく、だって先頭切っていったらケガするかもしれないから。チャレンジしろと言われてもチャレンジしない、だって失敗したら負け犬はいびり殺されるから。短期的な損失を恐れて、長期的には絶対に儲かるはずの株式投資はしないのです。
行動経済学にプロスペクト理論というものがあって、損得の感情は下の図の様に描かれます。横軸は損得、縦軸は効用/価値(うれしさ/悲しさ)を示しています。
価値観数が示すように損の不満は得の満足の2.5倍ぐらいになってしまいます。なので、損するぐらいなら、何もしない。参照点に留まることを人は選ぶのです。これを現状維持バイアスと呼ぶのです。しかし、冷静な人ならわかるでしょうが、損と得の値が同じなら、行動を起こすべきなのです。冷静に見ればその価値は同じなのですからね。悲しさは2.5倍でも、客観的に外から見れば、やらなきゃ損なのです。
以前に、「組織の鉄則:飴を徹底的に与えよ、褒めちぎれ」で書き込みましたが、電気ショックを与えられたネズミは身動きできなくなります。積極的な行動を起こさせるには、徹底的に褒める(アメを与える)ことが必要になるのです。損失による悲しさを感じさせないアメを与えましょう。
チャレンジして失敗したときの掛け声は、アメリカだと「ナイス!チャレンジ!」で日本だと「ドンマイ(気にするな)」です。なぜか日本は失敗を忘れるべきことの様にとらえていることがおわかりと思います。失敗は糧となり、失敗を何度も繰り返して成功するというのがアメリカの文化のようです。経済成長を続けているアメリカと不況から抜け出せない日本を、象徴しているように思いませんか?
参考文献:「9割の人間は行動経済学のカモである」 橋本之克 経済界