引用元:稲垣栄洋「38億年の生命史に学ぶ生存戦略」
日本酒を造るときには米の周りを削って中心部のみを使う。中心部のみを使うことによって雑味が少なくおいしい日本酒が作られるといわれている。この元のお米に対してどれくらいの割合のお米を残したかを示す数字が精米歩合である。例えば精米歩合が六〇パーセント以下ということは、四〇パーセント以上を削っているということになる。精米歩合六〇パーセント以下のお酒は吟醸酒(ぎんじょうしゅ)と呼ばれる。精米歩合が五〇パーセント以下は大吟醸と呼ばれる。これは半分以上のお米を削っているということである。
かつて、精米歩合でナンバー1を目指した日本酒メーカーがあった。有名銘柄の「獺祭」を作る山口県岩国市の旭酒造である。獺祭は、一度は精米歩合日本一を手に入れたが、その後は、日本一を目指さなかった。自らの強みを発揮するポジショニングに舵を切ったのである。
獺祭の成功はナンバー1を目指したことではない。日本酒を飲まないとされていたブルー・オーシャンを創り出したことだ。
旭酒造が精米歩合の競争にあけくれていたら、今の成功はなかったでしょう。「ずらし」を行ってニッチを見つけ出し、その場所でナンバー1になることで、成功を確実にしたといえる。旭酒造を打ち負かそうと考える酒造会社はほぼ無しである。旭酒造がつくったニッチに入り込んだ会社は、旭酒造に負かされて、あっという間に消滅するでしょう。強みを見つけると同時に、他社が入り込めないニッチを見つけることが重要である。