社会的地位が低いと寿命が短くなる。そんな事実があります。ロバート・H・フランク著/金森重樹監訳「幸せとお金の経済学」からの引用となりますが、よろしくお願いします。
地位が低い人ほど早く死ぬ
格差の拡大は中間所得層に悪影響を及ぼすかという問いに向き合おうとしなければ、格差と健康の因果関係について新たに進んでいる研究をも無視することになりかねません。絶対的に裕福な社会においても、格差の拡大が健康にさまざまな悪影響を及ぼすことが明らかになったのは、徹底した研究が積み重ねられてきたからなのです。
この分野の先端的研究はホワイトホール研究と呼ばれ、イギリスの公務員を対象にかなりの数のサンプルを集めて行われています。そのほとんどが十分な教育を受け、高い給料を稼ぎ、イギリスの優れた国民医療サービスを利用できるのに、下級公務員の疾病率と死亡率は同じ部署の上級公務員と比べると数倍に高く、喫煙など健康に影響を及ぼすさまざまな行動を調整しても、この結果は変わりません。
最初のホワイトホール研究では、1967~69年に40~60歳だった男性公務員1万8000人を対象としています。これらの男性の中で、最も職位の高い男性の心臓疾患による死亡リスクは、最も職位の低い男性の3分の1以下でした。
2回目のホワイトホール研究では、1985~88年に35~55歳だった公務員の男女1万人を対象としています。その結果、性別にかかわらず、長期にわたる病気の罹患率は職位と逆比例していることがわかりました。最も職位の低い女性の場合、長期な病気の罹患率は最も職位の高い女性の4倍に上がっています。
職位の相対的な変化が、基本的な生化学プロセスに重要な影響を及ぼすこともわかっています。
たとえば男性の場合、狭い範囲で職位の変化があっただけでも、テストステロンと呼ばれる性ホルモンの濃度が変動します。血漿中のテストステロン濃度は、職位が下がると下がり、職位が上がると上がる傾向にあります。
また、テニスの試合で圧勝した選手は、試合後に血漿中テストステロン濃度が上がり、負けたほうの選手はこの濃度が下がります。さらに、霊長類の研究からもテストステロン濃度が上がることによって、高い地位の獲得や維持がうまくいくことが証明されています。